『インセプション』ほど俺ルール開陳な映画はない。 [映画]
●地上波放送記念:『インセプション』と勝手ルール
どうもです。暑いんだか寒いんだかの梅雨突入前の今日この頃です。
今回の本文は、劇場公開時に鑑賞して書いた感想で、ずっとお蔵になっていたものです。
来週6/10に地上波放映されるとのことで、思い出して引っ張り出しました。
(こんなふうに書き捨ててる文が膨大に溜まっている、しかし旬を過ぎた話題ばかりで
ほとんどがどーしょーもない。だは。)
つーことで。ぶぉ~ん。
※今回も勿論ネタバレありますのでヨロシク注意。
●『インセプション』
インセプション [Blu-ray]
出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
メディア: Blu-ray
〈独自の“ルール”造りが肝の作品〉
夢(睡眠時のほう)の世界を、独特の思想解釈で細部まで構造法則を設定し、
それを受け手に理解納得させるように、周到にガイダンスをストーリィに絡めて
シナリオを紡いでおり、
夢(睡眠時)の学説や一般の意見がどうでも、「ここでは俺の映画ではこうなんだよ!」と
言い切った潔い映画で、そういう観点では良質なSF作品だと言える。
『メメント』の頃から、クリストファー・ノーランは、独特の“俺ルール”で映画を作っているが、
そうとう心を砕いて、話の中で説明と実証を繰り返し、
だいたいはそれを上手く観客に納得させられているようだし、
その独特ルールが作り出す珍奇なアクション展開が実に面白く結実している。
《勝手御免・ノーラン・夢ルール》
0:夢の世界では、夢を見ている当人にとっては現実(と思い込んでいる)。
怪我をすれば痛いし、死の危機に際してとことん回避しようとする。
1:睡眠時夢の世界は、あらかじめアタッシュケースのマシンを介すと、
他人の脳の夢世界に同時に何人も行ける。
2:夢世界は、TVゲームのステージのように、あらかじめ設計構築でき、
夢を見る見させる前に用意しておく事が出来る。
3:夢の世界は重層的構造で、当人は気付かず、夢の中で夢を見ていると言う事にもなる。
4:あらかじめ設定したトリガー知覚(痛覚、聴覚、重力(落下、衝突などの急激なG変化)等)
で、夢から目覚められる。それをタイマー設定する事により、夢世界の危機から
脱出することができる。
5:重層夢世界で、特に深層からは順番に目覚めてゆかないと、
現実に目覚めることを失敗して、昏睡状態になってしまう。
6:夢の中で夢を見るという、夢の重層世界はその階層を下りて行けば行くほど、
時間が引き延ばされ(本人の時間感覚)3層4層も降りれば、
何時間も過ぎたのに現実では数分ということになる。
深層の底にある無意識の夢世界、‘虚無’と呼ばれる世界では何十年にもなる。
7:夢の世界に居る人間に対し、ある特殊な調合をしたドラッグにより、
睡眠時に五感それぞれを麻痺させる、させない、を選択的に設定できる。
劇中では聴覚(及び内耳で重力を感じる三半規管)を残して麻痺させている。
それによって超自然な珍アクションが展開する事になった。
8:今自分がいるのが夢なのか現実なのかを知るには、極個人的な思い入れがある、
他人が詳細を知らないアイテムをあらかじめ一つ用意し、それを確認する事で可能に。
・
・
いやー、こうして書き出すと後から後から出てくる勝手ルール。
しかし、映画の流れに身を任せていると、派手なビジュアルのグイグイ引っぱる牽引力が
大きいせいか、あまり抵抗感無く納得できるようにしたのには脱帽だ。
ただわずかに、評者のようなゲームなど作ってた身としては、
ヒロインの女子大生がその優秀な才能を駆使して作ったという雪山要塞ワールドは、
せっかくだからもっとトラップやイベントを沢山仕込んでいて欲しかった。
例えば、劇中、近道する為にマップをショートカットしなければいけなくなったが、
ただ通風孔に入るのではなく、ある所に立って(鍵になる)あることをすると、
ドミノ倒し的にいろいろなことが起こり、結果ゴール地点に到着といった、
ピタゴラスイッチみたいな仕掛けがあったらヒロインの天才性がもっと出せたのにと。
というかそういうのを観たかった。惜しい!(ゼータク言うな)
「本当に現実に戻ってきたのか?」と含みを持たせたラストシーンの、
さじ加減は絶妙で、見てる者の心にフックを残す。
が、絶妙すぎて「コラー、やったな」って言いたくなるよねえ。
:面白すぎる珍アクション
渡辺謙は、ハリウッドのスターの面々の中で堂々たる存在感を放っていて、
『バットマン・ビギンズ』の役柄の肩透かし感を拭って余りある、国際俳優の実力を示した。
主役のデカプーは、「ブラッド・ダイアモンド」みたいな結構アクションやるのに、
頭の大きいデスクワーカーな印象もあり、今回のは本人史上一番のハマリ役だと思った。
(それまでは「ザ・ビーチ」の自分勝手な主人公が一番ハマッていたと思ったけれど。)
すっかりBC級役者と化したトム・べレンジャーが小さい役だが顔を出していたのには、
ちょっと嬉しかった。
さて、ふと思いついたのだが、
鑑賞中はアクションの連続で目を奪われ、様々なトリックを楽しんで劇場を出たが、
思い起こして気が付いたのは『ピーターパン』とのいくつかの類似点だ。
デカプー演じる主人公コブ(‘平’を付けてはいけない)と、
コブの夢の中だけに存在し、霊のように現れる死んだ奥さんの関係は、
『ピーターパン』での、「夢の国」ネバーランドにおけるピーターパンと、
妖精ティンカーベルの関係に酷似していると。
○アンデッド奥さんは嫉妬深く、コブの愛を独占したがる。
だからコブが連れて来たヒロインを排除しようとする。
その性格振る舞いは、ティンクそのままに思える。
○ネバーランド(ティンカーベル含む)は、信じることで存在し、
それを疑う事で崩壊してしまいもする。
このインセプションの夢世界もその通りの決まりになっている。
「夢世界」にダイブするというこの手のファンタジーはけっこう昔からあり、
『パプリカ』『うる星やつら・ビューティフルドリーマー』をよく引き合いに出されるが、
『インセプション』を語る上では、類似構造として『ピーターパン』もそれらと合わせて
入れておきたいと思ったりします。
(以上劇場公開時の感想)
最後に。
『インセプション』は近年のSF映画の中では、
センス・オブ・ワンダーとアクション・エンターティメントが見事に融合した、
特筆すべき傑作だト。今振り返ってみると、却ってその評価をもっと高めた
位置付けをするべきだト思えたっす。ぶぉ~ん・・・ぶぉ~ん(CM版の効果音)。
ノーラン監督には、次の『バットマン』続編の出来の期待がいや増すばかりだ。ぶぉ~ん!
(まさか新敵役のベインに瀕死の重傷を負わされ、昏睡状態のバットマンの夢世界の話には
しないだろうけども。ぶぉ~ん。それは『サンドマン』だっつーの。ぶぉ~ん。)
(註:上で言った『サンドマン』て、スパイダーマン3の敵役ではなくて
ニール・ゲイマン原作の幻想コミックの『サンドマン』のことです。
元は、睡眠ガス銃を武器にする往年のアメコミヒーローですが、
ゲイマン版では夢の世界の王として地獄のルシファーと張り合ったりする
怪奇幻想コミックなんです。夢の中で夢を見ているような描写もあった。)
(追記2012/6/16)
それじゃまた、ヒネッテゆーと!
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